一年前に起業したという若い経営者にお会いする機会があった。
小売業を営む彼には妻と可愛い盛りのお子さんがいらっしゃるとか。
「売り上げが伸びないんです。支払いをどうしたら良いか…」
コロナ禍の営業は事業者を「これでもか!」ってくらいに追い込んでいる。
注目されるのは飲食店ばかりであるが、幅広い業種で苦しんでいる経営者は多い。
自慢ではないが、私も経営者として月末はひぃひぃと資金繰りに奔走している。
事業を推進するということは、経費もジャブジャブ使うってことだ。
人件費や交通費、仕入れに家賃などなど。
売り上げが伸びようが下がろうがお構いなしに
社会保険等は通帳から有無を言わさず引き落とされている。
その昔、他界した私の父は小さい寿司屋を営んでいたのだが、
経営が上手くいかずにお客だった女性と駆け落ちした。
残された母は、見よう見まねで寿司を握るが当然素人のレベルで
寿司屋を回していく技術ではなく、みるみると借金が膨らんでいった。
母は、自分のカードが限度額いっぱいで使えなくなると
当然の如く、子ども名義のカードを使い始めた。
そういう行為が最終的に私たちにどう影響するかは自明の理である。
当時、私は経営者ではなく、いち企業のいち従業員だったため、
月々の収入には限度がある。
お金がない。
収入以上に借金があれば返せる道理もない。
お金がない。
たったこれだけのことで心の余裕がなくなる。
何をしていても手につかないし、料理だって味わえない。
寝ても覚めても考えるのはお金のことばかり。
胃がキリキリと痛み出す。
思考は停止するし、夜も満足に眠れない。
「幸せにします」と約束したはずの結婚式。
妻にも、妻のご両親にも申し訳なさでいっぱいになり、
我が身の不甲斐なさ、情けなさで涙もでない。
少しずつ、少しずつ周りの方々のおかげもあり、
人並みの生活ができるようになったが、あの時の息苦しさは忘れようがない。
気持ちばかりが焦り、感情すら忘れ去ってしまい、
心が疲弊していく暗い生活。
相談に来た若い経営者の苦しみも理解できる。
当時の私はいち従業員だったので、できることは弁護士に相談することだけだった。
経営者であれば、もっと可能性はある。
・銀行への返済を一時ストップしてもらう
・仕入れ先への入金を待ってもらう
・顧客に納品した分の入金を早くしてもらう
・商品券等にて先に現金を払ってもらう
・共同経営者を探して出資してもらう
・在庫分をこれまでの顧客や友人知人にお願いして購入してもらう
・借金が増える前に一旦事業を整理する
業態や業種によってやり方は様々だが、じっと思考停止していても
状況は一向に良くならない。というか、悪くなる一方だ。
奥さんとお子さんと会社を守るために経営者ができるのは
変な見栄やプライドを捨てること。
本当のプライドは大切なものを守っていくことだ。
開き直って現金化できるものを手当たり次第に探して
時には頭を下げてお願いすれば、少しは状況も変わっていくはず。
可能性は未来にしかない。
だったら、今を耐えて未来にいくしかない。